このページは、真空をまったく触ったことのない学生・新入研究者が抱く「真空ってそもそも何?」という疑問を解消し、装置選びと実験トラブルを防ぐための基礎知識をまとめています。数式ではなく、イメージと言葉で”圧力の世界”を旅してみましょう。
地上で私たちは常に 1 atm ≈ 101 kPa の空気に押されています。真空とはこの圧力を どこまで小さく抑えられるか を競う技術です。単位は SI では Pa(パスカル) が正式ですが、現場では mbar や Torr も併用されるため、相互換算に慣れておくと便利です。
例えば 1 Pa は 7.5 × 10−3 Torr、0.01 mbar に相当します。桁が多くてピンと来ない? そんな時は “大気圧を 100 000 Pa として、あと何桁下げるか” と覚えましょう。
コラム:宇宙は究極の真空?
地球低軌道(高度 400 km)の気圧は約 10−7 Pa。実験室の超高真空チャンバなら、ここからさらに 3〜4 桁 低い圧力が実現できます。つまり、研究室の装置は宇宙空間より空っぽになるのです!
大気を一息に超高真空へ引き抜ける「夢のポンプ」は存在しません。そこで、圧力レンジに合わせてポンプを階層的にリレー接続するのが一般的です。
真空システムの不調原因の7〜8 割はリーク。しかも高価なポンプではなく、数百円のOリングが犯人というケースが多数です。
その他、端子の溶接が甘くリークするケースや鋳物を研磨することで孔ができて素材からリークするなどもあります。
※真空度は目安です。ポンプの種類やチャンバー内のアウトガス状況によって大きく異なります。
継手・シール方式 | 主なシール材 | 推奨真空度目安 |
---|---|---|
NW (KF) フランジ | FKM / NBR O‑リング | 〜10−3 Pa |
ISO‑K / ISO‑F フランジ | 同上 | 〜10−3 Pa |
JIS‑VF / VG フランジ | 同上 | 〜10−3 Pa |
ICF (ConFlat) フランジ | 無酸素銅ガスケット | 〜10−10 Pa(超高真空) |
Swagelok 2‑フェルール継手 | SUS フェルール | 〜10−6 Pa |
VCR® メタルガスケット | Ni / SS / Cu ガスケット | 〜10−10 Pa(超高真空) |
テーパーねじ (NPT/Rc) | PTFE シールテープ | 〜100 Pa(粗真空) |
真空中では固体からも分子(主に水分)が滲み出します(アウトガス)。水蒸気や炭化水素は超高真空域を支配するため、材料選定が到達圧力を左右します。
PVC・ABS などは常温でも揮発分が多く、高真空には不向きです。
真空技術の基本は ポンプ・継手・材料・表面処理 の 4 本柱。ポイントを押さえて、研究室でも宇宙空間を凌ぐ真空環境を実現しましょう!