コラム
ConFlat(CF)誕生の由来
CF(ConFlat)フランジは、1960年代初頭に米国の Varian Associates(のちに Varian Inc. を経て、2010年に Agilent が Varian, Inc. を買収)で William R.(Bill)Wheeler らによって開発された金属シール方式が起源です。ConFlat は Varian の登録商標で、今日では汎称として CF の名称が広く用いられています。ナイフエッジが金属ガスケットに食い込む構造は高温ベーク後でもリークしにくいことから、UHV/XHV の標準へと定着しました。
※ 歴史的背景として、当時の半導体・表面科学分野で「ガス不透過かつベーク耐性の高い接続」を求めるニーズが高まり、ConFlat の普及が進みました。
背景
日本では「ICF」という名称が普及している理由
ConFlat(CF)は米 Varian が開発・商標化した名称ですが、日本国内では(旧)日電バリアン→アネルバ→キヤノンアネルバの製品群で「ICF」という商品名が広く使われ、学術・産業分野に普及しました。その結果、日常用語として「ICF」が定着しています。
- 国内規格との関係: かつて日本真空学会の JVIS 003(ベーカブルフランジ寸法)が流通上の参照枠となった時期があり、呼称の定着を後押ししました。現在はJIS B 2294(ISO 3669 対応)の使用が推奨されています。
- 国際的な呼び方: 海外では一般に CF(ConFlat の略)が通用します。日本語圏では ICF と CF が併用されます。
- 互換性の目安: 現行の ISO/JIS とは基本互換ですが、メーカーや大口径では細部が異なる場合があるため、公式寸法表での確認を推奨します。
1. リーク溝(リーク検査用の溝)
ICFフランジのリーク溝
どこにある? フランジのシール面(ナイフエッジ)に隣接する浅い溝です。メーカーにより有無や形状が異なります。
何のため?
- ヘリウムリークテスト時の「狙い所」を明確にするための補助機能です。溝に沿ってヘリウムを吹き付けると、シール部近傍へ集中的にアプローチできます。
- ただし、実務上は溝以外からの吹き付けでもリーク検出は可能です。現場では「溝がなくても困らない」という声も少なくありません。
※ リーク溝はシール機能そのものではありません。ナイフエッジと金属ガスケットの健全性が最優先です。
2. 横向き組立でガスケットが落ちる問題
横向き(あるいは上向き)で ICF を組むと、重力でガスケットがズレる/落ちることがあります。
解決策:ガスケットホルダーを使う
作業を安定させるガスケットホルダーが各社から提供されています。たとえば下記は取り回しのしやすい製品例です。
ガスケットホルダー(製品ページ・コスモ・テック)
使い方のポイント
- ホルダーで銅ガスケットを軽く把持し、落下方向に対して2点以上を支える。
- 相手フランジのリーク溝がある場合は、その段差にホルダーの爪を軽く掛けると位置決めが安定します。
- 仮止めボルトを対角線順(星形)で均等に接触させ、ホルダーを抜去。
- 本締めは少しずつ増し締めし、最終的に均一な押し込みを作ります。
3. ボルトの本数が多い理由
ICFフランジと一般フランジのボルト穴数比較
ICF は一般的な JIS フランジよりもボルト本数が多い設計が採用されています。目的はただ一つ、ガスケットを均一に締め付けて面圧をそろえることです。
- 均一面圧: ボルト点数を増やすことで、各ボルトの負担を下げ、ナイフエッジがガスケットへ均一に食い込む条件を作れます。
- 変形の抑制: 点間距離が短くなるためフランジの局所たわみが減り、シール線の連続性が保たれます。
- 作業性より再現性優先: 本数が多い分、締結手順は増えますが、対角線(星形)→段階増し締めで再現性が高まります。
4. プレートナットって知ってる?
ICF はボルト本数が多く、段階的な増し締めも必要になるため、通常のナット運用だと「ナットが回しにくい/ボルトが空回りする」などのストレスが出がちです。プレートナットを使うと、これが一気に解消します。
何が便利?
- 回り止め一体: 2つのボルト位置に合うプレート(ねじ穴付き)で受けるため、ナットの仮保持が不要、ボルト側も空回りしにくい。
- 作業効率が段違い: スパナのかけ替え回数が減り、狭所や横向き姿勢でもテンポよく締結できます。
- ICFならでは: 2本のボルト間隔が近いICFのピッチだからこそ成立する”芸当”。均一締結との相性が良く、作業の再現性も上がります。
使い方のポイント
- プレートナットを2本のボルト位置に合わせて保持し、仮止めを対角線順で進める。
- 段階的に増し締め(星形パターン)し、最終トルクで均一化。
- ねじ山の清掃・軽い潤滑(仕様許容時)で焼き付き防止。座面条件が変わる場合はメーカー推奨トルクを参照。
プレートナット(製品ページ・コスモ・テック)
5. フランジ側面の溝(外周の浅い溝)
ICFフランジ外周側面に見られる浅い溝の詳細
外周の側面に見られる浅い溝は、規格で必須とされた機能ではなく、メーカー固有の加工である場合がほとんどです。
代表的な意図(例)
- 把持・治具掛けの補助: 手や治具で保持しやすくするための”指掛かり”。
- 識別・位置合わせの目印: レーザーマーキングや刻印位置のガイド、組立方向の目安。
- 化粧・仕上げ起点: 外観仕上げの基準面(段差)としての意図。
いずれにしてもシール性能(ナイフエッジ)には無関係で、溝が無い製品もあります。用途不明に見えても不良ではないケースが大半です。
6. ICFフランジの厚みが”厚い”理由
ICFフランジと一般フランジの厚み比較
ICF はナイフエッジを銅(等の金属)ガスケットへ食い込ませる繊細な金属シール方式です。そのため、締結応力でフランジがたわむと密封が破綻します。
厚い理由
- ボルト締結時の曲げ・面外たわみを抑える。
- ナイフエッジの突き出し量・角度を安定に保つ。
- 繰り返し締結でもシール再現性を確保。
ビューポートの場合
- 硬い銅ガスケット(未焼鈍)+強締めは、ガラスへ過大応力が伝わり割れの原因になることがあります。
- その場合は焼きなまし(アニール)銅ガスケットの使用を推奨します。
ビューポート
補足:圧力と材質の観点
- 圧力だけを見れば: 真空側の差圧は最大でも約 1 気圧(≈0.1 MPa)です。したがって圧力耐性だけで言えば、より薄いフランジでも成立します。
- それでも厚くする理由: 実務ではボルト締結で生じるたわみ・面外曲げを抑えるための剛性確保が支配的です。
- ステンレス以外の材質: アルミや銅などはヤング率・降伏強度が低くたわみやすいため、規格厚みより”厚め”を選ぶ(または専用設計にする)と安心です。
締結の基本: 対角線順で段階的に増し締めし、仕上げは均一トルク。最適トルクはフランジサイズ・ボルト材質・ガスケット材で変わるため、
各メーカーの推奨値を参照してください。 詳細は
フランジ締め付け手順(技術情報) を参照してください。
焼きなまし銅ガスケット(製品紹介)
焼きなまし銅ガスケット(製品ページ・コスモ・テック):ビューポートなど応力に敏感な部位のシール形成に有利で、均一な面圧を確保しやすい軟質ガスケットです。
- 高温ベーク後の再現性向上に寄与。
- 硬い銅ガスケットでガラスへ応力が伝わりやすい場合の代替として有効。
まとめ
- リーク溝は検査の狙いを付けやすくする補助。なくても検査自体は可能。
- 横向き組立はガスケットホルダーが有効。リーク溝を”爪掛かり”として使うと安定。
- 増し締めが大変な場合はプレートナットを活用。回り止めと仮固定が容易で作業効率が向上します。
- 側面の溝はメーカー固有の加工で、シール機能とは無関係なことが多い。
- ICF が厚いのはたわみ防止のため。ビューポートには焼きなまし銅ガスケット推奨。