0. 教訓
油分は、紫外光や短波長光を吸収・散乱し、光学性能を大きく損なう原因となる。
1. 事例内容
ある実験装置では、短波長のレーザー(紫外領域)を用いて光学系の評価を行っていた。ミラーやレンズなどの光学部品は高精度な反射特性が求められるため、反射率や透過率の変化には特に注意が必要だった。
しかし、装置のメンテナンスでミラー交換作業を行った際、作業者が素手で光学部品を扱ってしまい、ごくわずかな皮脂(手の油)がミラー表面に付着した。
可視光での調整では油による影響は確認できなかったため、異常には気づかれなかったが、紫外領域の波長で測定を行ったところ、出力が大きく低下。原因を調査した結果、ミラー表面に付着した油膜が紫外光を吸収していたことが判明した。
失敗した人の声
「素手でミラーを触ってしまった瞬間、『これくらい大丈夫だろう』と軽く考えていました。可視光での調整では何も問題なく見えていたため、まさか自分の手の油が原因で実験が台無しになるとは思いませんでした。」
「紫外光での出力が激減したため、原因特定と復旧のために装置全体を分解・清掃する羽目になりました。なぜあの時、手袋をつける手間を惜しんだのかと、今でも後悔しています。」
「この失敗から学んだのは、光学部品に対する『見た目には分からない汚れ』の恐ろしさです。特に短波長では、人間の目には見えない油分が致命的な影響を与えることを身をもって知りました。」
2. 原因
- 素手で光学部品に触れたことによる皮脂の付着
- 短波長での測定に対する油の吸収特性への認識不足
3. 影響・被害
- 紫外領域でのレーザー出力の大幅な低下
- 実験データの信頼性低下
- 装置全体の分解清掃による作業時間の大幅な増加
- 実験スケジュールの遅延
4. 防止策
- 光学部品の取り扱いは必ず無塵手袋またはピンセットを使用する
- 光学面は定期的に紫外光を使って性能チェックし、吸収の兆候を早期発見する
5. 再発防止チェックリスト
- ✅ 光学部品取扱時の手袋着用:無塵手袋またはピンセットを必ず使用する
- ✅ 定期的な性能チェック:紫外光での光学性能を定期的に測定する
- ✅ 清掃手順の確認:光学部品専用の清掃方法と溶剤を使用する
- ✅ 作業環境の管理:光学部品周辺での油分使用を制限する
6. 補足
油分は可視光ではほとんど目立たないが、紫外光やEUVなど短波長になるほど吸収が顕著になるため、装置設計段階からの注意と管理が必要。特に真空環境での光学系では、蒸発した油が光学面に再付着する「アウトガス」にも注意が必要である。
また、人の手に由来する油だけでなく、オイル式の真空ポンプから拡散するオイルミストにも注意が必要。この対策として、ポンプの排気ラインにオイルトラップやフィルターを設置することが有効。