真空ベーキング作業手順(チェックリスト)
真空ベーキングにおいて気をつける点をまとめました。ここに記載したものはあくまで一例です。実際にベーキングを行う際は、依頼先企業に詳細をご相談ください。
0. 計画と安全
- 目標真空度/期限に合わせ、温度・時間・レートの上限を決める(例:金属主体でも樹脂があるなら樹脂に合わせる)
- 例外確認:アルミ(6061-T6) ≦150℃、ビューポート(ガラス/石英)多くは≦200℃、ターボ/ゲート/ベローズは周辺≦100-120℃
- 停電・異常時インターロック:自動ゲート閉、ポンプ保護、過昇温リミット、センサー断線保護を有効化
- 作業区域の酸素欠乏・火災リスク対策、消火器・換気・警報器の確認
1. 前処理(洗浄・準備)
- 洗浄:中性洗剤 → 超純水リンス → IPA拭き取り → 無塵乾燥。素手禁止
- トラップボリューム対策:盲穴・袋穴にベント穴/ベント付きボルトを採用
- シール材・配線・接着剤は低アウトガス品のみ(PVC不可、PTFE/Kapton推奨)
- リークは先に修理。真空度が上がらない理由はリークかも?Heリークテストで事前確認
2. 組立と配置
- 均一加熱を意識した配置:厚肉フランジ・窓の温度ムラを減らす。直接加熱を避ける
- 熱膨張リーク対策:ろう付け部(Kovar-ガラス等)・CF面に急激/不均一な熱負荷を与えない。片締め・高温増し締めは原則しない
3. ヒーター巻き・断熱
ヒーターの詳細な注意点は
各製品ページのタブをご確認ください。
- 発熱体は重ね巻き・急曲げを避け、最小曲げ半径を遵守
- 空焚き防止:巻き付けられず余った部分は断熱材で必ず覆う
- 遮熱板・断熱ブランケットでポンプ・バルブ・ゲージを直射から保護
4. 計測系セット
- 温度センサをワークに直付け(ヒーター温度≠実体温度)。厚肉部・窓・端部など複数点で測る
- 圧力計はレンジに合うもの。電離真空計/RGAのフィラメントは高圧域で点灯しない(概ね ≦10⁻³mbar)
5. 排気系セットアップ
- ドライ系+ターボを基本(スクロール/ダイアフラム)。油系を使う場合は高性能トラップで逆流防止
- 連続排気が可能な配管・冷却・電源を確保(ベーク中は常時排気)
6. 立ち上げ(昇温)
- 真空引きしながら
0.5-2℃/分
で昇温(ガラス/石英はより穏やかに ≦0.5-1℃/分)
- ポンプ・ゲート・ベローズ・ビューポートはカタログ上限温度を超えない(周辺100-120℃目安)
- 温度ムラを抑えるため段階的に帯域ごと(チャンバー→配管→付帯)で追従加熱
7. 保温(ソーク)
- 所定の材質別ターゲット温度×時間を保持(連続排気は継続)
- Oリングや樹脂部は低温帯にとどめるか別ベークを検討
- RGA/圧力は“温度上昇に伴うアウトガス放出による一時的な上昇→徐々に下がる”挙動を確認・記録
8. 降温(クールダウン)
- 目標時間終了→ヒーターOFF。排気は継続したまま自然降温(1-2℃/分程度)
- ガラス/セラミックは急冷厳禁。高温時の増し締めは基本禁止
9. ベント/パージ
- 完全に室温になってから、乾燥窒素で静かにベント
- 露点目安 ≦-40℃、2-3回置換で残留水を押し出す。パージラインは清浄・逆止弁付き
10. 事後確認
- 圧力・RGAスペクトル・温度ログを保存。必要に応じHeリークテスト再実施
- 変色・硬化・質量変化など、Oリング/樹脂の劣化サインを点検
迷ったときの実務目安(例外厳守)
ざっくり指針:
FKM:150℃
金属:250-400℃(装置の上限内)
それ以外の樹脂・配線・接着系:70℃
迷ったら:まず250℃ × 10hで”乾かす”運用がだいたい有効
ただし例外:アルミ(6061-T6) ≦150℃、ガラス/石英はメーカー上限(多くは≦200℃)、ターボ/ゲート/ベローズ周辺≦100-120℃。ここに一つでも抵触する場合は全体条件を下げる
よくある落とし穴
熱膨張差での微小リーク(フランジ・ろう付け部) → ゆっくり・均一加熱/直射禁止/高温時の締結作業は避ける。パイプが膨張で引っ張られてリークすることもある。特に温度を下げていく時に注意が必要。
空焚きヒーター → 余長は断熱材で覆う
高圧でのフィラメント点灯 → 電離計/RGAは十分引けてから
油逆流 → ドライ系基本。油系は確実なトラップ+インターロック
“ベークすれば直る”誤解 → リークは前に直す