真空排気ガイド – 計算例集
📐 計算例の使い方
各例題は段階的に解説しています。
まず問題を読んで自分で考えてから、解答を確認してください。
数値は覚える必要はありませんが、計算手順と考え方を理解することが重要です。
1. 気体のふるまい – 計算例
📐 例題1: 理想気体の状態方程式
問題: 1 L の容器に入った空気が、20℃(293 K)で 100 Pa の圧力を示しています。この容器内の気体の物質量は?
解答:
PV = nRT より、n = PV / (RT)
n = (100 Pa × 0.001 m³) / (8.314 J/(mol·K) × 293 K)
n = 0.1 / 2436 = 4.1 × 10−5 mol
確認: これは約 2.5 × 1019 個の分子に相当します(アボガドロ数 6.02 × 1023 を使用)
📐 例題2: 分子密度と圧力
問題: 室温(300 K)で圧力が 1 Pa の時の分子密度は?
解答:
P = nkT より、n = P / (kT)
n = 1 Pa / (1.38 × 10−23 J/K × 300 K)
n = 1 / (4.14 × 10−21) = 2.4 × 1020 個/m³
イメージ: 1 cm³(角砂糖1個分)あたり約 2.4 × 1014 個の分子
📐 例題3: 平均自由行程の計算
問題: 上記の条件(300 K, 1 Pa)での空気分子の平均自由行程は?
解答:
λ = 1 / (√2 π σ² n)
σ = 3.7 × 10−10 m, n = 2.4 × 1020 個/m³ を使用
λ = 1 / (1.414 × 3.14 × (3.7×10−10)² × 2.4×1020)
λ = 7 mm
暗算チェック: λ = 7 mm × (1 Pa / 1 Pa) = 7 mm ✓
2. クヌーセン数 – 計算例
📐 例題1: 大気圧付近での判定
問題: 内径 10 mm の配管で、大気圧(105 Pa、300 K)の空気が流れるとき、流れの種類は?
解答:
Step 1: 平均自由行程を計算
λ = 7 mm × (1 Pa / 105 Pa) = 7 × 10−5 mm = 7 × 10−8 m
Step 2: クヌーセン数を計算
K = λ / D = (7 × 10−8 m) / (0.01 m) = 7 × 10−6
判定: K ≪ 0.01 なので粘性流
📐 例題2: 中真空での判定
問題: 内径 50 mm の配管で、圧力 10 Pa(300 K)の空気が流れるとき、流れの種類は?
解答:
Step 1: 平均自由行程を計算
λ = 7 mm × (1 Pa / 10 Pa) = 0.7 mm = 7 × 10−4 m
Step 2: クヌーセン数を計算
K = λ / D = (7 × 10−4 m) / (0.05 m) = 0.014
判定: K = 0.014 > 0.01 なので中間流(もはや粘性流ではない)
📐 例題3: 太い配管での高真空
問題: 内径 100 mm の配管で、圧力 10−3 Pa(300 K)の空気が流れるとき、流れの種類は?
解答:
Step 1: 平均自由行程を計算
λ = 7 mm × (1 Pa / 10−3 Pa) = 7 m
Step 2: クヌーセン数を計算
K = λ / D = 7 m / 0.1 m = 70
判定: K = 70 ≫ 0.3 なので分子流
驚きの事実: 太い配管(100 mm)でも高真空(10−3 Pa)では分子流になります!
📐 例題4: さらに太い配管での高真空
問題: 内径 500 mm の大口径配管で、圧力 10−2 Pa(300 K)の空気が流れるとき、流れの種類は?
解答:
Step 1: 平均自由行程を計算
λ = 7 mm × (1 Pa / 10−2 Pa) = 700 mm = 0.7 m
Step 2: クヌーセン数を計算
K = λ / D = 0.7 m / 0.5 m = 1.4
判定: K = 1.4 > 0.3 なので分子流
ポイント: 超大口径(500 mm)でも、10−2 Pa程度の高真空では分子流になります。粘性流にするには、もっと太い配管か、より高い圧力が必要です。
📐 例題5: 粘性流になる条件
問題: 内径 100 mm の配管で粘性流(K < 0.01)にするには、どの程度の圧力が必要?
解答:
K < 0.01 の条件:λ / D < 0.01
λ < 0.01 × D = 0.01 × 0.1 m = 0.001 m = 1 mm
λ = 7 mm × (1 Pa / P) < 1 mm より
7 / P < 1 → P > 7 Pa
結論: 内径 100 mm の配管では、7 Pa 以上で粘性流になります。
確認: P = 10 Pa の場合、λ = 0.7 mm、K = 0.007 < 0.01 で粘性流 ✓
3. コンダクタンス – 計算例
📐 例題1: 粘性流でのコンダクタンス
問題: 内径 40 mm、長さ 0.5 m の配管で、平均圧力 50 Pa のとき、粘性流でのコンダクタンスは?
解答:
C = 1349 D4 P / L
D = 0.04 m, L = 0.5 m, P = 50 Pa
C = 1349 × (0.04)4 × 50 / 0.5
C = 1349 × 2.56 × 10−6 × 50 / 0.5
C = 1349 × 2.56 × 10−6 × 100
C = 0.345 m³/s = 345 L/s
ポイント: 圧力が高いため、かなり大きなコンダクタンスが得られます
📐 例題2: 分子流でのコンダクタンス
問題: 上と同じ配管(内径 40 mm、長さ 0.5 m)で、分子流でのコンダクタンスは?
解答:
C = 121 D3 / L
D = 0.04 m, L = 0.5 m
C = 121 × (0.04)3 / 0.5
C = 121 × 6.4 × 10−5 / 0.5
C = 121 × 1.28 × 10−4
C = 0.0155 m³/s = 15.5 L/s
ポイント: 粘性流の 345 L/s から 15.5 L/s に大幅減少!
📐 例題3: 配管太さの影響
問題: 上記配管の内径を 60 mm に変更すると、分子流でのコンダクタンスはどうなる?
解答:
C = 121 D3 / L
D = 0.06 m, L = 0.5 m
C = 121 × (0.06)3 / 0.5
C = 121 × 2.16 × 10−4 / 0.5
C = 121 × 4.32 × 10−4
C = 0.0523 m³/s = 52.3 L/s
比較:
– 40 mm → 15.5 L/s
– 60 mm → 52.3 L/s
直径1.5倍で、コンダクタンスは3.4倍に!(1.53 = 3.375)
4. 分子流領域での有効排気速度の計算
分子流を前提に、配管コンダクタンス C と有効排気速度 Se を求めます。
📋 前提条件
配管: 内径 40 mm(= 0.04 m), 長さ 1 m
ポンプ: ターボ分子ポンプ S0 = 50 L/s(定格)
Step 2: 分子流コンダクタンス C の計算
- 式: C = 121 × D3 / L (D, L は m、空気・室温の近似)
- D = 0.04 m, L = 1 m
- C = 121 × (0.04)3 / 1 = 121 × 6.4 × 10−5 = 7.744 × 10−3 m³/s = 7.744 L/s
Step 3: ポンプの選定
ターボ分子ポンプの定格排気速度を S0 = 50 L/s とします。
Step 3: 有効排気速度 Se の計算
- 合成: 1/Se = 1/S0 + 1/C
- 1/Se = 1/50 + 1/7.744 ≈ 0.0200 + 0.1291 = 0.1491
- Se = 1 / 0.1491 ≈ 6.71 L/s
⚠️ 気づき
配管コンダクタンスがボトルネックとなり、ポンプ50 L/sでも有効排気速度は約 6.7 L/s に低下します。