失敗事例 #04
「ピラニ真空計油逆流事故」
1. 事故のあらまし
研究装置の到達圧力をピラニ真空計で常時モニタリングしていたが、ある日 1 Pa 付近で数値が振れ続ける 異常を検知。分解点検した結果、計測子内部までフォアポンプ油が上がり込み、熱伝導センサーを覆っていた。
図1:油逆流の発生状況(トラップ未設置、下向き設置)
2. 主な原因
フォアライントラップ未設置
オイル逆流を止める最終防壁がなく、停止時の差圧で油が上昇。
ピラニ真空計を下向きに設置
重力方向に油が流れ込みやすく、逆流を助長。
ポンプ停止手順の不備
バルブ遮断やN₂ブローを行わずに電源を切ったため、ライン内の負圧が油を引き込んだ。
3. 被害とコスト
- 測定値の信頼性喪失 — 取得済みデータをすべて再測定(実験やり直し)
- センサーヘッド交換 — 部品代 5万円 + 再較正費用
- 装置停止 2日 — スケジュール遅延・人件費ロス
4. 再発防止のチェックリスト
- ✅ 計器は必ず上向きに取り付ける(取説記載の「センサー縦設置」を厳守)
- ✅ オイル系フォアポンプにはトラップまたは冷却バッフルを必ず直列挿入
- ✅ ポンプ停止手順の実施
- 真空計を大気遮断
- フォアラインに乾いたN₂を少量導入
- 最後にポンプ電源OFF
- ✅ 定期点検時にピラニのゼロ点ずれ(大気で1013 hPaにならない)を確認
- ✅ 「油が上がるかも」と感じたら迷わずイオンゲージではなくピエゾ式などオイル耐性の高い計器を選定
図2:正しい設置方法(トラップ設置、上向き設置)
5. 新人・学生へのメッセージ
真空は見えないだけに、油の逆流は”静かに”装置を壊す。
取り付け方向・トラップ有無・停止手順──この3点を守るだけで故障もデータロスも防げる。
“取付は上向き、トラップは必須、停止は慎重” を合言葉に。
6. 最終チェックリスト
- ✅ ピラニ真空計が上向きに設置されている
- ✅ フォアライントラップが設置されている
- ✅ 停止手順が文書化され、作業者に周知されている
- ✅ 定期点検スケジュールが設定されている
- ✅ 緊急時の対応手順が明確にされている